精神科の早期介入とは-導入のきっかけ・オーストラリアモデル-

 日本の早期介入は先行するオーストラリアの研究が土台になっています。
オーストラリアでは1990年代、Yung.A.R(アリソン・ヤン)やMcGorry.P.D(パトリック・マクゴーリ)といった人たちが中心となって、精神病の早期介入研究に取り組んできました。


その流れは、やがて英国、米国、欧州各国へと飛び火して、1998年には国際早期精神病協会が設立され、日本にもこれが「輸入」されたのです。
マクゴーリたちが使う言葉は「手遅れになる前に」です。日本もこれにならって「こじれる前に」と言っていますが、これは巧妙なメタファーです。心配する親や教師の心理をうまくついているといえるでしょう。
しかし、本家オーストラリアをはじめ、世界的に見れば、マクゴーリたちの早期介入はわりに早い段階から批判を浴びていました。オーストラリアの精神科医の半数は早期介入に対して、「若者を必要以上に薬のリスクにさらす結果となる」として反対しています。


さらに、マクゴーリが行おうとした予防的介入試験も、多くの批判を呼び、中止せざるをない状況に追い込まれました。
しかし、日本ではそうした動向も敏感に感じ取ってか、オーストラリアだけでなく、英国流の早期介入もかなり参考にしています。それは一言でいえば「アウトリーチ」というやり方です。「早期介入チーム」を組んで、自宅まで出かけて介入するというやり方で、どちらかといえば認知行動療法に力を入れています(もちろん薬物療法は捨ててはいません)。

しかし、薬物療法にしろ、認知行動療法にしろ、2009年に発表された「コクラン共同計画」では、以下のような結論を出しています。
(コクラン共同計画とは、製薬会社の資金援助を受けていない国際的な研究者団体のことで、1992年イギリスに作られた。)

 精神疾患予防についてこれまで行われた18の研究を精査した結果――
・オランザピン(抗精神病薬・ジプレキサ)にはほとんどベネフィットがないように思われる。
・認知行動療法(CBT) にもベネフィットはないように思われる。
・リスペドリン(抗精神病薬・リスパダール)+CBT+専門チームは、6ヵ月では専門チームは単独よりもベネフィットをもたらしていたが、12ヵ月の時点ではそれは見られなかった。
 ――としています。

 

 つまり、薬も認知行動療法もアウトリーチも、何も精神疾患の予防に効果のあるものは「ないように思われる」という結論なのです。
 しかし、日本の研究者たちはこうした海外の動向をまったく無視して、早期介入を既に実施し、さらに全国の学校で、早期介入をシステムとして定着させようとしているのが現状です。